かえるの王さまあるいは鉄のハインリヒがKHM1なワケを考察

KHM1「かえるの王さまあるいは鉄のハインリヒ」についての考察です。
と、それに見る、グリム兄弟がグリム童話集を作った意図。
深い考察ではなく主人が何となく思いついたというものなので、半分メモ程度に書いておきます。


はじめに必ずこちらをお読みください。
転載禁止!!

「かえるの王さまあるいは鉄のハインリヒ」は、初版から通してずっとKHM(グリム童話の並び順)1番に置かれています。

かえるの王さま(Wikipedia)

前半のお話についての考察を少しだけ書くと、金のまりはおそらく太陽を表し、蛙はあちらの世界(水の中)とこちらの世界を行き来する存在と同時に、王様=太陽と考えられます。ハインリヒは太陽を乗せて運ぶ馬車のイメージでしょうか。あちらの世界・太陽については過去の記事をご覧ください。
今回は前半は置いておいて、お話そのものの存在意義と、取って付けたように存在する後半のハインリヒパートについての考察です。

このお話は前半パートと後半パートがあり、後半では呪いがとけた王様が蛙から人間に戻ったあと、家来であるハインリヒの胸にはめられた3本の鉄のたががはずれる、という描写が書かれています。
王様が呪われた悲しさで張り裂けそうな胸を無理やり鉄のたがで押さえ込んでいたが、王様が戻ってきたうれしさのあまりそのたががはじけ飛んでしまった、という内容です。
前半パートだけで終わっていても十分きれいなお話なのに、ぱっと見蛇足ではと思えるパートです。

主人の考察では、このお話はグリム童話最後のKHM200「金の鍵」に対応しているのだろうということです。このお話も、初版からずっとラストに設置されているそうです。
「金の鍵」のお話は簡単に書くと、男の子が雪の中から小さな金の鍵を見つけ、さらに地面を掘ると地面の中から鉄の小箱が出てきます。箱には鍵穴がありません。探してやっと見つけましたが、見えないくらい小さな小さなものでした。鍵を差し込むとうまく合いました。そこで鍵を一回ぐるりと回し、
“男の子がすっかり錠をはずし終わり蓋を開けるまで、私たちは待たねばなりません。そうしたら、どんなに素晴らしい物がその箱に入っていたかわかるでしょう”
と、こういう内容です。
金の鍵に、鉄の小箱。
なおハインリヒの「鉄のたががはずれる」はドイツの慣用句「心の石が落ちる(意味:肩の荷が下りる)」にかけた表現だそうで、石=メデューサの呪いのイメージと考えられます。
つまり鉄は冷たい、呪いにかけられた、石になっているイメージです。
(メデューサの呪いについては白雪姫あたりの過去の記事を参照)

グリム兄弟は、散逸してしまったドイツ特有の神話の研究をしていました。
ゲルマン神話、ひいてはその大元のインド・ヨーロッパ語族の神話は、中世にキリスト教の影響により、ほとんどが消滅してしまったと考えられます。
おそらくグリム兄弟は、そのようにキリスト教により押し込められ、封印されてしまった本来あったであろう神話を、「金の鍵」のお話の鉄の小箱に見立てたのではないでしょうか。
童話集の一番初めに呪いがとける話を持ってくることで「これから中世の呪いがとけますよ」という意味を込め、太陽=金である王様(金の鍵)が鉄であるハインリヒ(鉄の小箱)のもとに帰ってくると、鉄の封印ははじけ飛ぶであろうと。
(ハインリヒの台詞は、なぜか古臭い方言で書かれているそうです。岩波文庫版の訳だと、「あいや、殿様」とか書いてあります。つまりハインリヒは古代から来ちゃった人なんだろうと)
そしてその金の鍵はラストでグリム兄弟から読者に手渡されたんだよ、いつか誰か鉄の小箱のふたをあけるんだよ……と。
主人はそう考えるそうです。
人類が何千年もかけて育ててきた文化の中の「思想」という大きな部分ですから、大事な大事なものが入っているに違いありません。

もちろん「これが正解」じゃなくて、読者の受け取ったイメージで良いのではないかとも思いますけどね。
特に「金の鍵」は、読者の想像にお任せしますな終わり方ですし。
私は、もっと広いイメージのメッセージが込められてるんじゃないかなと勝手に捉えています。
鉄の小箱を開けるということはあちらの世界(冥界・この世とは違う理を持つ世界)を覗くのと同じようなもので、何かのきっかけで金の鍵を手に入れた特別な人(アクシデントなどで環境がガラッと変わったり、生まれつき人と違うものを持っていたりする人)があけられると。
そしてあけた本人はもちろん、鍵を持っていない普通の人も、その人があけた箱の中身から何らかの形で恩恵を受けたり、または新しい鍵を手に入れる人が出てきたり。世界は今までそうやって続いてきたんだよ……というような。
と、今自分で書いていて、実はこれも主人の言うところの鉄の箱の中身の一部なんじゃないかと思いました。


グリム童話・西洋文学に関する薀蓄・考察・解釈一覧